子供の貧困を逆手に。石川県加賀市のNPO法人阿羅漢とは。

NPO法人 阿羅漢(あらはん)

2009年、石川県加賀市に設立。

子供の貧困や虐待、ひきこもりや非行に走った子供達のケアに焦点を当て、
地域における最後のセーフティーネットとして「山代ファミリーサポートセンター」を運営。

現在は、地域活動を通じて出会った高齢者・障がい者への支援も掛け合わせ、
複雑化する地域課題を逆手にとった事業を多岐にわたり展開している。

代表 福田清志さん

石川県七尾市出身。大学卒業後に加賀市の中学教師として着任。

教師生活9年目の時に生活指導を任され、以来約20年ものあいだ、
市内の学校を渡り歩きながら子供達の直面している暮らしや悩みに寄り添い続けた

その後の2009年、福田氏が47歳のときに”NPO法人阿羅漢(あらはん)”を設立。

2013年、その”阿羅漢”が転換期を迎えたことをきっかけに、
29年間の教師生活に終止符を打ち、NPO一本で活動を決意

石川県加賀市の子供達を誰より見てきた存在の一人でもある。

Q1 NPO法人設立のきっかけを教えてください。

特定の学校に所属している以上、その学校の生徒や地区のケアが中心になりがちですが、
同じ問題や不安を抱えている生徒に対しては、住んでいる場所・通っている学校に関係なく
話を聞いてあげる人であったり、ケアをする必要があります。

そんな背景から「一部の学校」「一部の地区」という線引きを取っ払い
全体のセーフティーネットになるべくNPO法人の設立を決めました。

Q2 事業の内容を教えてください。

大きな柱としては「子育て支援」と「放課後の学童保育」です。

そしてこの二本の柱からも零れ落ちる子供達がいないように、
隙間の事業として、ひきこもりや非行に走る子供達への支援も行っています。

また、現在は高齢者や障がい者向けの支援も行っています。

不登校の子供が99歳のおばあちゃんと仲良くなったり、
同世代だけでなく立場・環境の違う世代と掛け合わせることは、
お互いにとっての支えとなり、気づけば助けられているというプラスの要素も多いですね。


‐スーパーを改装した建物内には子供たちの遊び場と高齢者向けサロンが同居。

Q3 地域と密接に関わる、「朝がゆの会」とは?

毎週二回、地域の小中学生や一人暮らしの高齢者を対象にして
釜炊きのおかゆを提供する「朝がゆの会」を開催し続けて6年経ちました。

始まりは、一人の非行少年。

当時、その少年のことを周りに聞くと「早起きは得意」という事だけはわかったので、
本人に「じゃあ明日早く来てみな」と伝え、そこからは上手くやりながら(笑)、
釜で米を炊かせて、ボランティアとして配ったのがスタートでした。


‐朝がゆの会

これまでお礼を言われることも少ない子らだったんで、
朝がゆを通じて地域のおばあちゃんや知らない小学生から
「ありがとう」と声をかけられたのは自分たちも救われたんだと思います。

「お前を助けてやる!」と言われると子供達は嫌がりますが、
知らず知らずのうちに地域の「ありがとう」で育てられ、助けられていったんですよね。


‐当時の様子を振り返る福田さん

Q4 地域のイベントにも子供たちを連れて参加されてますよね?

不登校の子であったり、ひきこもりの子供達を連れて、
薪割り体験などでイベントに出店したりすることもあります。
出張朝がゆの会をやることもありますし。

うちに来る子供たちは「俺なんか生まれてこなければよかった」という子ばっかり。

人間孤立したら駄目なんでしょう。
イベントやボランティアを通じて色んな人とのかかわりを持って、
子供達に沢山の経験をさせることで自分の物差しを作っていってほしいと思ってます。

Q5 阿羅漢に関わった子供達のことを教えてください。

いろいろな子供たちがいますが、
その子に応じた仕掛けをすることを大切にしてます。

例えば、「伝説をつくるぞ!」とけしかけて、
お祭りの翌日の朝、みんなを起こしてまわって町内を大掃除したこともあります。

そして活動自体は今も残っていて、
今では地域の中学生たちが掃除をするのが恒例になってるんです。


‐清掃ボランティアとして今年の新聞にも掲載

どの国や地域にだって、非行に走ってしまった子供達はいますが、
彼らだって24時間365日ずっと悪い子な訳ではありません。

誰もが皆、朝から晩まで鬼ではいられないんです。

この仕事をしていると、辛い思いや大変なことも沢山ありますが、
時々、言葉にできないほど嬉しいことが起きるもんなんです。

Q6 福田先生の子供たちに対する思いを教えてください。

自分のなかでテーマとしている事でもあるけれど、
過ちや失敗をさせることが人を育てます。

それを分からず、今の子育ての風潮として、過ちや失敗を避ける傾向が見られますが、
そうすると大人や大きくなってからもっと大きな壁にぶち当たる。

抑圧されている子供達の多くは、人の物差しで喧嘩したり泣いたりしています。

小さい頃から子供達にいろんな経験をさせることで、
自分の物差しで物事を判断できる子供になってほしいですね。


‐子供達のことを話す福田さん。