地元の怪談話に惹かれ、気づけば移住15年。知らず知らずに惹き込まれる加賀暮らしとは。

石川県加賀市に、昔から語り継がれる怪談話が存在する事を知っていますか?
昔からほとんど変わらぬ町割りのお陰で、その存在を今でもリアルに感じる事が出来ます。

今回は移住して15年目のイラストレーターの方に取材させていただき、
仕事として絵を描く傍ら、地元の怪談の魅力に引き込まれた彼女の加賀ぐらしに迫りました。

あべゆみこさん

石川県加賀市出身。高校卒業後、大学進学のため東京に住所を移す。
在学中にイラストアシスタントのアルバイトをはじめ、卒業後そのまま就職。

6〜7年に渡る下積み期間を経て、イラストレーターとして独立
地域のお店の取材やイラスト制作を行う日々。

その後、長男が3歳の時に待機児童問題に悩まされ加賀にUターン移住
当初は数年で東京に戻ろうと決めていたが、徐々に暮らしが馴染みそのまま15年目。

現在は、東京/加賀などエリア関係なくイラストの依頼を受ける一方で、
自身の趣味でもある「地元の怪談話」を、地域に根付かせる”大聖寺怪談会”を開催

ー Uターン移住のきっかけは待機児童なのでしょうか?

そうなんです。

15年以上前の話になりますが、東京ではすでに待機児童の問題が深刻でした。
私の場合、旦那もフリーの仕事をしている人間だったので、なかなか保育園に入れず。

思うように仕事も出来ず、一回加賀に帰ろうと決めたんです。

加賀の保育園にはUターン後すぐに入れたのですが、
東京で申請していた保育園の順番が回って来たのは、それから一年後の事でしたね。

その時には子供も加賀での暮らしを楽しんでいましたし、
地方独特の”のぼのぼ感”を気に入っていたので、そのまま加賀で暮らすことにしました。

ー 東京と加賀の仕事、どの位の割合でやられてますか?

タイミングにもよりますが、結局半々くらいだと思います。

東京の仕事は、かつて一緒に働いていた仲間が回してくれることが多いのですが、
加賀の場合は地元のフリーペーパーで連載を持ち始めたのがきっかけですね。


取材から執筆まで全てを一人で担当されていたという当時のフリーペーパーの連載漫画

ー もともと加賀の仕事も探していたのでしょうか?

どちらかというと、引きずりこまれました(笑)。

最初、数年で東京に戻ろうと決めていたこともあって、
あんまり地元の仕事を探している感じではなかったんです。

でも一度フリーペーパーの仕事を受けると、あれは自動的に色んな家のポストに届きますし、
その時はちょうど長男も保育園に通っていたので、ママ友から声をかけていただいたりと、
自然と広まって次の仕事にも繋がっていった状況でした。


惜しまれつつ廃刊となった加賀日和にもあべさんの連載が

ー あべさんは「大聖寺怪談会」というイベントの主催者でもありますが、詳しく教えてください。

この「大聖寺(だいしょうじ)怪談会」というのは、
石川県加賀市にある大聖寺という町が舞台となって開催されるイベントです。

この大聖寺は、かつては十万石の城下町として栄えていて、お殿様もちゃんといたんです。
そのお殿様が江戸時代に家来に命令して作らせたのが、”怪談百物語「聖城怪談録」”です。

怪談百物語「聖城怪談録(せいじょうかいだんろく)」とは…

藩政時代の第八代大聖寺藩主・前田利考が、兵士たちを集めて百物語を語らせ、それを家臣に書き留めさせた書物。実際にお殿様の前で語られた物語は「怖い」とうよりも「ゆるい不思議な話」が多い。

この怪談録の面白いところは、
今でも文中に出てくる現場が残っていて実際に見にいけるところです。

急にお殿様に招集をかけられて集まった家臣たちが語っているので、
「ただのご近所の噂話なのでは?」っていうレベルのものも載っていて、
作り込まれてない分リアルでちょっと笑える怪談集なんです(笑)。

私が主催している「大聖寺怪談会」は、怪談録に詳しい先生をお呼びして
解説を聞いたり、原文と現代訳の朗読を聞いて楽しんでいただくと共に、
実際の現場まで肝試ししながらナイトウォークを楽しんだり。

そんなイベントです。

大聖寺怪談会のチラシ。火の玉のイラストはあべさん作

ー 怪談会は今年で4年目。なぜ”怪談”をテーマに選んだのでしょうか?

子供の頃は妖怪にはまっていて(笑)
水木しげるさんや楳図かずおさんの作品を熱心に読んでいる子供だったんです。

大人になって加賀に戻ってから、自分の地元に「怪談録」がある事を知って。
しかも家から5分のところが舞台になってたり!それを知った時に凄くワクワクしました。

水木しげるさんが全国の妖怪を描いていることは結構有名なんですが、
大聖寺の妖怪(クラゲの火の玉・長面妖女)も描かれているんですよ!

そういう背景もあって妖怪熱が再燃した感じで。
今でも仕事とは別にライフワークとしてこのイベントを開催しています。


地域から舞い込むイラストのお仕事も沢山。
名物・鴨だしうどんのイラストもあべさんが手掛けている。

ー 今後、地域でやりたいことや仕掛けたいことはありますか?

大聖寺は妖怪業界では有名なスポットなんです。

でも私が子供の頃、あんなに妖怪にはまっていたのに
その事実を知らなかったのが悔しくて(笑)

なので、”怪談百物語「聖城怪談録」”をきちんと製本された絵本や冊子にして、
「地元のおばけだよ〜」って子供たちに知ってもらいたいですね。

自分たちが普段何気なく通っている通学路でも、
江戸時代にはクラゲの火の玉が出てたんだよって知るだけで、
地元がちょっと特別になるというか、そんな体験をぜひして欲しいです。


自分が子供だった頃の様子を語るあべゆみこさん

ー あべさんにとって、加賀はどんな場所ですか?

加賀は、海も近いし、スキーも山も釣りも楽しめる場所だと思います。
私自身、仕事が疲れたな〜と思って海に行くこともしょっちゅうです。

あといくつもの温泉にすぐに行けて癒されることが出来ることも、
加賀が大好きな理由です!

そして空港までも車で2−30分で行けるし、そこから東京へ1時間。
すごい楽ちんです。

車は必要かなと思いますが…。

東京ほどモノは手に入らないかもしれないけれど、
仕事さえあれば、のびのびと暮らせる場所だと思います!


可愛いこのポチ袋はあべゆみこさんのオリジナル商品。
はづちを丹塗り屋で販売中。

大聖寺怪談会

facebookページ


取材後記:ずっと気になっていた大聖寺怪談会。その主催をされているあべさんの取材でした。もともと待機児童で加賀にUターン移住してきたことなどは初めて知り、そのまま加賀に惹きこまれ定住を決めたエピソードは、いろんなママさんに響くのではないでしょうか。そして何より怪談話に花が咲いた楽しい取材となりました。あの水木しげるさんも一目置いていた大聖寺という町…。地域の妖怪や怪談話を子どもたちに繋いでいこうとする姿がかっこいいです!あべさん、ありがとうございました!