※本記事は、株式会社マスメディアン様が運営するメディア「advanced」の記事の一部を、依頼を受けて加賀ぐらしにて掲載しております。
電通で広告デザイナーとして活躍しながら「のらもじ発見プロジェクト」などメディアアートとしても評価される活動をしてきた下浜臨太郎さん。現在は独立し、金沢美術工芸大学で教鞭を執りつつ、東京にも拠点を置き、フリーランスデザイナーとして仕事をされています。そんな下浜さんと、北陸エリアのadvancedな人や企業を追いかける連載を新たにスタートします。
記念すべき第1回は、石川県・加賀温泉郷フェスの仕掛け人である、よろづや観光代表の萬谷浩幸(よろづやひろゆき)さん。加賀温泉郷フェスは、温泉旅館を舞台に大森靖子やtofubeats、土岐麻子、さらにはDJハローキティちゃんなどディープなアーティストが数々出演することで話題のフェスです。アーティストのラインナップのカオスっぷりや、汗をかいたらすぐ温泉に入れる環境が病みつきになり、リピーターが続出しているようです。そんな加賀温泉郷フェスは今年で8回目を迎えます。萬谷さんに、はじめたきっかけや当時の苦労話、今後の展望について、お話を伺ってきました(マスメディアン編集部)。
下浜:「温泉旅館を使ってフェスをやる」というのは企画として非常に面白いと感じていました。最初のきっかけは何だったのでしょうか?
萬谷:きっかけは2011年の東日本大震災でした。当時、節電・自粛ムードがあり、旅館へのお客さまも減ってしまい困っていたところ、たまたま地元の旅館組合の青年部支部長に就任しました。それで旅館単体ではなく、地域全体で取り組みをすべきではないかと考えたのです。
下浜:なるほど…! それまでは加賀温泉郷という地域が一体となっていなかったのですか?
萬谷:そうですね、エリア全体でのPRをできていませんでした。ちょうど震災の前後だったかと思うのですが、九州新幹線の全線開業のCMが公開されました。すぐに放映自粛になってしまい幻のCMと言われているやつです。あのCMが好きで九州に視察に行ったところ、タクシーがラッピングされ、のぼりがいたるところに立っており、加賀温泉郷とは対照的にエリア全体で観光ムードが盛り上がっていました。我々も首都圏に向けてもっと一体となってアピールする必要があると感じ、それでLADY KAGA(レディー・カガ)というWeb動画をつくったんです。それが地域プロモーションの先駆けとして、色々なところで取り上げられてヒットしました。ただ……そこで問題が起こりました。
下浜:え…!? どのような問題があったのでしょうか? その頃、電通に勤めていましたが、広告会社の企画者の立場から見ても、パンチのあるコピーで、うまい施策だなぁと感じていましたが…。
萬谷:動画を見て、実際に加賀温泉郷にレディー・カガがいると勘違いして、足を運ぶお客さまが多かったんです。でも実際にお越しいただいても、駅にレディー・カガがいるわけではありません。そこで、そういった方々にも満足いただけるリアルイベント「レディー・カガフェス」をやろうと思ったんです。
下浜:実際に「レディー・カガ」に会えるフェスですか?(笑) そこから現在の「加賀温泉郷フェス」の企画になっていくということでしょうか?
萬谷:箭内道彦さんが実行委員長を務めていらっしゃる福島のフェス「風とロック芋煮会」に影響を受けました。故郷・福島県のピンチに、箭内さんやロックバンド・サンボマスターのボーカル山口さん等がバンド“猪苗代湖ズ”を再結成してイベントを開催したんです。たまたま福島に知り合いがいて参加したのですが、間違えてお目当ての日の1日前に行ってしまいました。けれども、思っていたのと別の場所で開かれていて、猪苗代湖の畔にあるすごく古い観光施設で、サンボマスターやBRAHMAN等がパフォーマンスをしていました。その様子にすごく惹かれました。地方にはよくある寂れた施設に、そうそうたるアーティストがいるというアンバランスさにグッときちゃって(笑)。そこでフェスと観光の親和性を感じて、レディー・カガフェスをやろうと思ったんです。その後、商標の問題もあり、加賀温泉郷フェスに名を変えて、スタートしました。
下浜:僕も普段とは違った場所を使うことで魅力をつくる、サイトスペシフィックな考え方が好きです。実際に加賀でフェスを開催しようとしたときに、苦労した点はありましたか?
萬谷:当時、レディー・カガがヒットしていたので、フェスも簡単にできると思っていました(笑)。しかし、思いのほか、周りの理解が得られなくて苦労しました。そもそもフェスって何ですか? どういった効果が得られるんですか? とかとか。そこをなんとか説得して、開催までこぎ着けました。
温泉旅館で催されることの価値
下浜:確かに、なぜ音楽フェスを?というのは思うかもしれないです。騒音の問題もあるし、行ったことのない人にはその企画の魅力は伝わらなそうですし……。
萬谷:なんとか初回を迎えたのですが、実は台風のせいで途中で中止になってしまったんです(笑)。それでもアーティストの方々が、フジロックも第1回は台風で中止だったけど今やメジャーなフェスになったので、加賀温泉郷フェスも続くぞと応援してくれて。また興行だけでなく町おこしを目的としているので、これで辞めたらダメだと地域の皆さんも応援してくれて、なんとか8回目まで迎えることができました。
下浜:なんと…! 第1回目から中止とは…波乱万丈な始まり方ですね! それでも8年も続けて開催できているのはすごいことだと思います。僕はてっきり最初から温泉旅館でやっているものだと思っていました。
萬谷:当初は、片山津温泉近くの湖畔の公園で開催したのですが、5年目からは温泉旅館「瑠璃光」の中で開催するようになりました。湖畔だと温泉感が出なかったのですが、旅館で行うようになってからは来場者の満足度もより高まったように感じます。
大宴会ステージ
クラブステージ
下浜:僕は温泉旅館でフェスをやるという場所の意外性がとても面白いなと思って参加しましたが、はじめは普通に湖畔だったんですね。
萬谷:「加賀温泉郷フェス」という名前が表すように、個別の旅館ではなく地域全体でやることに価値があると思っていたので、いくつかの温泉街が周辺に広がっている湖の近くで開催することに意義があると思っていました。
ただ、地元の人はあまり「加賀温泉郷」というワードに馴染みがありませんでした。なぜかというと、加賀温泉郷は山代温泉、山中温泉、片山津温泉、粟津温泉で構成されているのですが、それぞれの温泉街が大事という考え方が地元の人は根強かったんです。でも、僕は東京の大学に進学し、そのまま東京で就職して働いていたので、外から客観的に見ても車で10分ほどの4つの温泉街をひとつのエリアとして売り出したほうがいいと考えていました。だから4つの温泉をまとめた「加賀温泉郷」というワードに凄く価値を感じていて、加賀温泉郷を首都圏に広めたい気持ちで、フェスを続けています。
下浜:個々にPRしていくより、ひとつにまとめてPRしていくほうがシンプルだし、力強いですよね。そうなると、よろづや観光さんの運営している旅館「瑠璃光」でフェスを開催することは、当初の考え方と相反してしまう感じでしょうか?
旅館「瑠璃光」の前景
萬谷:自分の旅館でフェスを開くとなった時、もちろん葛藤はありました。でも、ライブを見て、すぐに温泉に入り、いつでも寝られるというのが、加賀温泉郷フェスのイメージに最もマッチしていて、他のフェスよりアドバンテージになると思いました。経営者としては、旅館内のモノを壊されるのではないか、旅館の片隅で問題行為が行われるのではないか、といったリスクもよぎりましたが、勇気を振り絞って旅館内で開催する判断をしました。
続きを読む(別サイトに移動します)