塾フェス?お野菜ポイント? 勉強したくない子でも学びたくなる塾ってなんだろう

「塾の概念をぶち壊したかったんですよね(笑)」
そう話すのは、塾コミュニティ―「きずなプラス」をオープンさせた鈴木優子さん。

勉強は、自由に生きるためのツールの一つ。本当に大切なものは、その先にある。

そんなメッセージを伝えたいと願う彼女の取り組みについて
お話を伺ってきました。

きずなプラス

2020年3月、加賀市山中温泉にオープンした塾コミュニティ―「きずなプラス」。

学習塾コースだけでなく、音楽レッスンやカメラ講座など、勉強に留まらない学びが用意されていて、子どもから大人まで誰でも受講可能。音楽レッスンは1コマ30分のチケット制というのも嬉しいところ。

「英語×クッキング」や「塾フェス」など、机の上だけで学ばないスタイルも企画中。

鈴木優子さん

加賀市山中温泉出身。高校を卒業後、メイクの専門学校へ進むため上京。

東京でメイクアップアーティストとして活躍していたある日、友達からのひと言がきっかけでオーストラリアへの語学留学を決意。帰国後は山中温泉に戻り、わずか3ヶ月の準備期間でフランチャイズの学習塾をスタートさせる。

2年前から子育て仲間と一緒に「山中fammit!」を結成し、ハロウィンイベントや地元の名所を利用したマーケットなど、自分が楽しみながら地域のみんなも盛り上がる活動を開始。

2020年の春、フランチャイズから独立して「きずなプラス」をスタートさせ、ジャンルも年齢も超えた学びの場を模索している。

―前職はメイクアップアーティストをされていましたが、
教育に興味を持ったきっかけは何だったのですか?

メイクの仕事をしていた頃、オーストラリアに語学留学したことがきっかけですね。
勉強は得意な方だったので、そこそこ英語も通じるはず、と思って行ったんです。そしたらもう、まったく!(笑)。そこで同じスクールに通う外国人に「日本人って、ノートもペンも教科書も十分に与えられてるよね。なのに、なんでしゃべれないの?」って言われて、ものすごくショックで。でも事実だなと思ったんです。

その時、日本人に足りないのは、学びたい!自分を表現したい!という欲求、つまりメンタル面なんだなって思って。どれだけ日本の英語教育が低年齢化しようが、そこにアプローチしない限り、絶対変わらないって。そこで初めて、教育に関心を持つようになりました。

現地で児童英語を学んでいるうちに教える楽しさにも気づいて、中学生を教える資格とか、レッスンコーディネーターの資格など、いろいろ取っていきました。その頃には、人の外側をキレイにすることより、内側から自分を表現できる子どもを育てたいという気持ちが強くなっていて、語学学校を卒業したら地元に戻って、塾をやろうって思うようになっていました。

―塾はフランチャイズでのスタートでしたよね。

当時の私は22歳で、そんな若者が塾を始めるといっても何の信用もないですから、フランチャイズの力を借りてオープンさせました。

ただ、「塾」といっても、勉強だけが目的になるのは少し違う気がしていて。勉強を通して「世の中には勉強より大切なこともたくさんある」って伝えたくて塾をやってるんですよね。だからバリバリの進学塾とはちょっと違う。例えば「こんにちはー」と生徒が入ってきたとき、なんか表情が沈んでるな、と思ったら「今日は勉強の前に、少し話そう」って、庭に誘ったりもします。手をかけるより、目をかけてあげる。それがお互いの信頼関係にも繋がっていくと思っています。

私、自分が進学校からメイクの専門学校に行きたい、と話したとき、周りの大人に「いいんじゃない」って言ってくれる人が一人もいなかったんですよね。それがほんとはすごく心細かった。

だから今、ほんとは王道から外れたいって悩んでる子がいたら、「それもありなんじゃない、サポートするよ」って言ってあげられる存在になりたいって思っています。

「塾に行くからこそ友達と遊べる、という場所にしたかった」と鈴木さん。バスケットやBBQもできる広い庭は、子ども達の憩いの場にもなっている。

―フランチャイズから独立し、「きずなプラス」をスタートさせたきっかけは何だったのですか?

フランチャイズだと、新しいコースやサービスを作りたいと思ってもできない部分もあって。「勉強以外でも自己表現していいんだよ」って言ってるのに、勉強の手段しか持っていないことが嫌だったんです。

あとは、中学を卒業したら生徒とお別れしてしまうのが寂しいなって。もちろん自習とかで来てくれたりはするんですけど、この子たちが成長していく過程をこの先も共有していきたい、と強く思うようになりました。

長く学び続けられる趣味の講座も作って、大人も子どもも色んな方法で自分を表現できる場を作りたい。そんな風に思っていた時に、素敵な講師陣とのご縁があって、塾コミュニティー「きずなプラス」をオープンすることができました。

―具体的にはどのような塾なのですか?

音楽やカメラなど、勉強以外の学びもできるのが最大の特徴です。勉強と他ジャンルとのコラボをどんどんしていきたいと思ってて。例えば、英語の勉強として映画『スタンドバイミー』を観たあとに、ギターに合わせてみんなでスタンドバイミーを歌ってみる、とか。今までだったら観るだけで終わっていたところに、プラスアルファの部分が生まれる。コラボすることで、学びの広がりができていくといいなと思っています。

新しく取り入れた「お野菜ポイント」も、塾コミュニティ―ならではの取り組みだと思います。


教室の見えるところに楽器や機材を置いておくと、子ども達が自然と音楽にも興味をもつのだとか。

―「お野菜ポイント」ですか?

勉強が進んだ分を「お野菜ポイント」として生徒に渡すんです。ポイントが貯まったら、生徒は地元の方が育てた無農薬野菜と交換して、持って帰ることができるんですよ。

最初、お菓子との交換も考えたんです。でもお菓子だったら、嬉しいのは自分だけ。
それがもし白菜だったら、家族みんなが「あんたが頑張ってもらってきてくれた白菜おいしいわ」って食べてくれる。子どもも誇らしいですよね。親も子どもに「ありがとう」と言えるし、野菜を作ってくれる人達も、子ども達のために張り切って作ってくださる。

お菓子や文房具じゃなくて、「お野菜ポイント」にすれば、親と、子どもと、地域の間で、嬉しい気持ちが循環するしくみが作れるなって思ったんです。

子ども達には、目先のテストや受験のためだけに勉強するんじゃなくて、学んだことが誰かの幸せに繋がる喜びを感じてほしいんですよね。

(写真提供:デリフォトマルリ

―地元貢献にもなるしくみですね。

…地元貢献って言葉、実は使われ方に違和感を感じるんですよね(苦笑)。
人口の点から見ると、なんとなくカラダが帰ってきてくれることばかり評価されている気がするのですが、ココロが帰ってきてくれる子達もちゃんと地元に貢献してると思っていて。

海外や東京で仕事をしていたとしても、例えば税金は地元に納めるよ、とか、漆器を大量に仕入れて東京で売ってくれたりとか。総湯に年に2回しか入らなくても、湯札を買ってくれる人とかもいます。

カラダが帰ってくるだけが貢献じゃなくて、もっとココロが帰ってくる人のことも評価されるようになったらいいなと思うし、塾でも色んな貢献ができる子を育てたいと思っています。

―ココロやカラダが帰ってきたい、と思うには何が大事だと思いますか?

私はやっぱり、人だと思いますよ。やっぱり「おもしろいな」って大人に、どれだけ出会えるかだと思います。

うちは生徒として大人の方にも通ってもらえるコースがありますが、講師として塾に参加する方もこれからどんどん増えていけばいいなって思っていて。
得意なことがあるけど披露する場がないとか、会社員をやっているけど、本当はこういうことが好き、ってことをやれる場所になれたらいいなと。それが結局、塾に来る子ども達にとっても、色んなおもしろい生き方をしている大人との出会いに繋がりますから。とりあえず音楽コースの生徒さん達と、うちの庭で塾フェスをすることは決定してます!(笑)。

知らないことを知るって、学び続けるっておもしろいんだなーと、私達大人を通じて子ども達が思ってくれたら、とても嬉しいです。それに気付いた子どもは、勉強したその先を、必ず見据えることができるから。そうなれば、テストの点数だって必然的に上がっていきます。
一緒に笑って、一緒に泣いて、子ども達が人間として成長していく過程をこれからも共有していけたら、最高に幸せですね。

きずなプラス

住所:石川県加賀市山中温泉上原町2-8-2

電話:0761-78-5272

E-mail:ppbppb299@gmail.com

HP:https://ppbppb299.wixsite.com/kizuna01

Facebook:https://www.facebook.com/kizuna.tsumugi/

ご案内
本記事は、加賀市の人口減少対策室と共同で取材・作成をした記事になります。加賀市は、南加賀唯一の消滅可能性都市に含まれており、少子化という喫緊の課題を抱えていることは否定できません。そんな中、マイナスを受け止め前向きに地域で活躍する人たちのパワフルさや、自らの力でマイナスをプラスに変えていくしなやかさを、加賀ぐらしを通じて色んな人に伝えたいと思い企画いたしました。この記事を通じて、加賀の1ピースが伝われば幸いです。

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TEXT BY

higashino

2007年加賀市に移住。普段はパートをしながら、カフェやこども食堂で絵本の読み聞かせ会「絵本の中の小さなお茶会」を開く日々。人とじっくり話がしたくて読書会を企画することもあるが、実は本のことはあまり詳しくない。人見知りだけど飛び込み力はある2児の母。