加賀 最奥の町 大土町(おおづちまち)
赤瓦の屋根の民家に、段々畑。
訪れる人をどこか懐かしい気持ちにさせるような
そんなノスタルジックな場所が、石川県加賀市にあります。
市街地から車を走らせておよそ30分。
山深い道を進んだ先に見えてくるのは山奥の小さな集落・大土町(おおづちまち)です。
豊かな自然や昔ながらの暮らしが残る加賀最奥のこの町では
過疎が進み現在の住民はわずか一世帯のみ。
大土の風景と人に魅せられ、この地へ通うようになった一人の女性が
「私も大土を盛り上げたい!」と昨年から町の新たな地域資源としてハーブの栽培を開始。
彼女の想いを取材させていただきました。
竹内かよこさん
石川県加賀市出身。1児の母。
高校を卒業後は、東京の大学へ進学。
ビートルズ好きのお父さんの影響で好きになった英語を活かし、
在学中から一人で海外を旅するように。
卒業後は栄養学を学ぶために専門学校へ進学。
「美味しいものを自分で作って食べることって楽しい」と食への関心が高まる。
27歳の頃、ワーキングホリデーでWWOOF(ウーフ)制度を利用。
カナダの小さな農場を転々とする生活をおくる。
WWOOF(ウーフ)とは…
「農業を通じた労働」と「食事・住む場所」を交換しあう、金銭を介さない労働システム。労働を提供する”ウーファー”と、ホストとなる農家は、信頼と温かなコミュニケーションで繋がり、家族のような間柄で生活を共にする。
参照:https://www.wwoofjapan.com/main/
滞在した1年半で巡った農場は全部で9カ所。
農作業やファミリーとの交流を通じて、
自分が育てたものを生活の中に取り入れて活かす楽しさを知る。
現在は、地元の小学校で子ども達に英語を教えるかたわら、
多い時は週に5日、大土町へハーブの世話をしに通う。
大土町の住民 二枚田昇さん
大土町出身。
町を後世へ残すべく、自身が63歳の時に再び大土町へ戻り、大土町に定住する。
国際ボランティア団体を受け入れ、訪れる人と積極的に交流し
農業や山での暮らしを通じて大土町の魅力を県外や海外の若い世代へも伝える。
竹内さんが「私も大土町を盛り上げたい」と思うようになったのは、
強い志を持ち、あたたかく受け入れてくれる二枚田さんの存在があったからこそ。
現在は、お互いの活動をサポートするなど、大土町を盛り上げる同士として
とてもいい関係が続いているそう。
ー 大土町へ足を運ぶようになったキッカケは?
写真家の友人から「素敵な場所が加賀市にあるよ」と誘われて、
4年前に初めて大土町を訪れました。
大土町ののどかな風景と二枚田さんの温かい人柄が、
以前カナダで過ごした農場とファミリーの空気感とよく似ていて、
一気に好きになり、足を運ぶようになりました。
「晴れた日は美しい星空が見えるよ」
「雨が降れば靄がかかる山が綺麗だよ」
大土町の魅力をロマンチックに教えてくれる二枚田さんのおかげで
私も大土町のことを大好きになりました。
ー 通ううちに、大土町のために自分も何かしたいと思うようになったのでしょうか?
この山奥で畑仕事をしながら定住するのはとても大変なことだと思うのですが、
ボランティアの方達をあたたかく受け入れながら
大土町を後世へ残そうと頑張る二枚田さんを見ていて、
私もこの町のために何か出来ないかなと、自然と考えるようになりました。
また、大土町は、私の義理の祖父のゆかりの地でもあります。
じいちゃんも昔、今のわたしと同じように
大土町を気に入って通っていた時期があったそうです。
大土町は自分にとって”何か特別な場所”だと感じると話してくれるじいちゃんに、
わたしも同じ想いでいることを伝えたらとても喜んでくれて。
「大土に土地があるから、そこであんたがなんかやってくれたら嬉しいよ」と
じいちゃんが大土で何かはじめることを勧めてくれたんです。
そこから、大土町で私が出来ることは何かを具体的に模索するようになりました。
ー 大土町でハーブを育てようと決めたいきさつは?
大土町には、”和ハッカ”というミントが自生しています。
この和ハッカは、実はじいちゃんが20年前に植えたものなんです。
以前、二枚田さんが「刈っても刈っても生えてくる草がある」と言っていたことがあって
それで調べたら、その草がじいちゃんが昔植えた和ハッカだということが
たまたま分かったんです。
…大土でたくましく今も自生するじいちゃんの和ハッカの存在を知った時、
「この和ハッカを、大土町の地域資源にしたいな」と強く思って。
この時、同時に”カレンデュラ”というハーブのことも思い出しました。
カレンデュラは、私がカナダの農場で出会ったハーブで、
日本ではまだあまりなじみはありませんが、
皮膚をケアする優れた効能を持つハーブとしてカナダではよく知られています。
カレンデュラ。オレンジ色の花を咲かせる。
カナダでお世話になったどの農家のお母さんも
みんなこのカレンデュラを育てていたことが、とても印象に残っていて。
私も母になった今、カレンデュラを育ててみたいという思いがどんどん膨らみました。
じいちゃんの和ハッカと、私がこれから育てるカレンデュラを合わせて
大土町の新たな地域資源として”ハーブ”を提案しようと決めて、
昨年から、大土町でハーブ畑をはじめました。
ー 大土町でハーブを育てるにあたり 大変だったことは?
昨年は、カレンデュラとラベンダーを、
今年はそれに加えてバジルやディルなど種類を増やし
現在は4~5種類のハーブを季節に合わせて植えています。
最初は特に、土のメンテナンスが大変でした。
二枚田さんや農業に詳しい方に教わりながら作業をしました。
植えた2/3が虫にやられてしまったこともあります。
天候に左右されていつもドキドキしながら、ハーブが無事に育つか
子どもを見守る親のような気持ちで世話をしているんですよ。
無事に発芽したカレンデュラの芽。
ー ハーブを使った取り組みについて教えてください。
今年の夏、ノンアルコールモヒートや、ラベンダーレモネードなど
ハーブを使ったドリンクを皆で楽しむ会を開催しました。
和ハッカを使用したノンアルコールモヒート。爽やかな香りが大好評。
また、カレンデュラの花の部分を使った、
カレンデュラオイルを手作りするワークショップも、
今年の7月から定期的に開催しています。
カレンデュラオイルづくり体験ワークショップのようす
ハーブをきっかけに、大土町のことも知ってほしいという思いから、
いずれのイベントも大土町を会場としています。
毎回参加者の方には、町の散策も一緒に楽しんでいただいているんですよ。
二枚田さんのガイドで大土町を散策するようす。
ハーブ畑も見学できる。タイミングがよければ一緒に収穫することも。
参加者の方から、
「このワークショップがなかったら大土を知ることはなかったので来れて良かった!」
という声をいただいた時は、ものすごく嬉しかったです!
ー 今後の目標は?
カレンデュラオイルづくりの他にも、
ハーブを生活の中で身近に感じてもらえるようなワークショップを
今後も開催していきたいです。
大土町で共同のハーブ園なんかも出来たらいいですね。
ハーブを通じて大土町に来てもらった方が、ここの良さを実際に感じてもらって、
「あぁまた来たいな」「いつか自分もここで何かをはじめたい」と
思う方が増えていったらとても嬉しいです。
私も大好きなこの大土町が、誰かの特別な場所にもなったら最高です…!
理想は、カナダでお世話になった羊農家のお母さん。
自分で育てた物を上手に生活に取り入れて、
良いと思うものを、惜しみなく人にシェアをする。
私もそんな、“GIVEの人”でありたいです。
石川県加賀市大土町
住所 石川県加賀市山中温泉大土町