石川県加賀市は移住者を増やすため色々な取り組みを行っており、
大学生ワークショップ「PLUSKAGAプロジェクト」など、
他地域の方たちと盛んに交流する機会もたくさんあります。
そんな加賀市は、外の人から見てどのような場所に映っているのでしょうか。
今回は、PLUSKAGAプロジェクトに参加したのち、その後も加賀市に足を運ぶことで、
地域交流イベントを成功させた彼女に「外から見た加賀市」を語っていただきました!
慶應義塾大学 伴野綾さん
静岡県出身。慶應義塾大学環境情報学部(SFC)に所属し、普段はデザインを専攻。
なかでも、ちょっと違う角度から世界を見る視点や普通を切り取る感覚を大切にし、
路上を使った展示会の企画や、市民が自由に公共空間を使う為の設計など、
日常を様々な視点・視野から伝えるアプローチを研究・実践されています。
また、「モノ」を通じて生まれるコミュニケーションにも関心を持っており、
石川県加賀市の持つ総湯文化に着目した「どうゆ〜カゴプロジェクト」を2018年夏に企画。
加賀市内で展示会も開催し、地域の人たちからも高い反響を読んで話題となりました。
どうゆ〜カゴプロジェクトー総湯カゴ100個の記録ー
総湯に持って行くのは、どうゆ〜カゴ???
総湯とは北陸の温泉地にある共同浴場のこと。
ここでは地元の人が日常的に総湯に浸かり、自分のお風呂のように過ごす文化があります。
2018年2月、そんな総湯のひとつである「山代温泉」をフィールドとして、
常連のお客さんが持つMYカゴ(お風呂道具一式が入っている)の記録が始まりました。
そして2018年9月に山代温泉総湯の待合室を使い、集まった100カゴ分の記録と
お客さんから語ってもらったインタビュー結果の展示会が開催されました。
そうゆ〜カゴや、こうゆ〜カゴ。カゴの数だけ物語があります。
何気ない日常の一部であるカゴから、加賀の総湯文化を伝えます。
ー 加賀市を知ったきっかけや最初のイメージは?
「加賀」という名前はもともと知っていて、工芸が盛んな町というイメージがありました。
一方で温泉のイメージはなく、加賀市を訪れて市内に3つも温泉があることを知ったんです。
加賀市を訪れたきっかけは、大学生ワークショップ「PLUSKAGA」に参加したことです。
大学の先輩が一年前に参加していて、自分も興味が湧いたので2018年の回に参加させてもらいました。
PLUSKAGAではいろんな地域の人の話を聞く機会があるのですが、
皆さん加賀のことを愛していて、でも抱えている課題やもどかしい思いも伝えてくれて、
複雑な感情を飲み込みながらもたくましく活動する姿が輝いてみえたのが印象的でした。
PLUSKAGAプロジェクトでは石川県加賀市の色々な場所を巡り地域の人の話をきく。
ー どうゆ〜カゴプロジェクトはどうやって考えたのですか?
加賀市の人を知る中で、私には本当に皆さんが輝いてみえたので、
新しいことを企画するプロジェクトというよりは、今ある加賀の姿を肯定して伝えるような
プロジェクトを作りたいなと思ったのが最初の思いです。
あとは、自分ひとりで実行できる範囲のプロジェクトにしようというのも決めていました。
PLUSKAGAの方針でもありますが、提案だけで終わるプロジェクトにはしたくなかったので、
どういう素材のプロジェクトなら自分が主体的に取り組めるのかは重要視していましたね。
そんな時に「総湯」の存在を知って。
私はもちろん初めて聞いた言葉だったのですが、加賀の人は当たり前のように使ってるし、
生活の大事な一部になっていることに衝撃を受けたんです。
ー 総湯との出会いは衝撃だったんですね。
ネットが普及しているこの時代に、こんなローカルに根ざした文化が!と興奮しましたし、
「総湯にくる人はみんなMYカゴを持っている。しかもカスタマイズしてる…。」と
ネットでは絶対に出てこない地域ならではの日常感に胸を打たれました。
そこからPLUSKAGAの期間外にも加賀市を訪れて、MYカゴ収集をスタートさせたんです。
トータルすると1週間くらいですかね、山代温泉の番台に立たせてもらって、
常連さんに声をかけてはカゴを撮影するという、はたから見ると妙な行動を繰り返しました。
山代温泉の総湯の番台にて。
当初は一人でやるつもりでしたが、結果的には山代温泉総湯のスタッフさん、地域の方、
まちづくり推進協議会の方など色んな人に助けていただいて進めることができました。
MYカゴのカスタマイズには一人ひとりの生活の知恵が詰め込まれています。
自分で取手をつけた桶や、仲の良い友人と半分にしたお尻マットなど、百人百様です。
ぜひストーリーを感じてもらいたいです。
MYカゴを一枚一枚丁寧に写真を撮って集めたそう。これは半分にしたお尻マット。
全部で100カゴ!
ー MYカゴを記録した展示会の様子を教えてください。
予想をはるかに超える方に立ち寄っていただきました。
総湯上がりの人はもちろん、当時取材させてもらった常連さんも来てくれました。
「これ、私のカゴよ!」と嬉しそうに話す姿には癒されました。
1カゴ1カゴ丁寧に展示している。
当日はMYカゴ本、ステッカー、総湯タオルを販売したのですが、これも好評でした!
なぜか私のサインを求めてくださるお客さんもいて、そういうコミュニケーションも面白かったです(笑)
このプロジェクトを通じて、総湯の持っているポテンシャルを改めて感じたんです。
総湯の関係はここにしかなく、友達以上家族未満の不思議なコミュニティが存在しています。
毎日の習慣だからこそ育まれる関係性を見つけ直すきっかけになったら嬉しいです。
ー これからチャレンジしたいことは?
この総湯プロジェクトを、県外に発信していきたいなと思っています。
いま、東京や都心部でも銭湯ブームなんて言われていますが、
色んなところで銭湯やお風呂にまつわるイベントが開催されています。
そういうイベントに絡めて、北陸の総湯文化の面白さを伝えていきたいですね。
あとは、加賀市の街並みを歩いていると、二度見してしまうお店や風景も多いので、
そういう「ちょっと気になるところ」をリサーチしていきたいです。
外観から見た展示の様子。気になって中に入ってくれた人もいたそう。
ー 最後に加賀市の人に一言ください。
まず、加賀の人には、カゴを見せてくれてありがとうございます、と言いたいです。
それなしでは成立しない企画だったので、100カゴ分のありがとうを伝えたいです。
総湯でプロジェクトの準備をしていると、色んな人に話しかけていただきました。
総湯自体がコミュニケーションを生み出しやすい不思議な力を持っていると思います。
「自分の庭」とまではいかないですが、各々にとってここは安心して話し合えるような雰囲気がある気がするんです。
このプロジェクトを通じて、「毎日の普通」と思っていたことが、
素敵で特別なことなんだと思うきっかけになってくれたらとても嬉しいです!