古着屋に擬態した、100人中3人のための居場所「COSMO」

山中温泉の商店街に向かう道。
レトロでありながらアバンギャルドな雰囲気もある
ブティックが佇んでいます。

看板には「COSMO」。

中に入れば、古着があって、山積みの本があって、非売品のZINEがあって。
足元の箱には、懐かしの8cmCDが大量に。

店主・重吉祐輔さんに、これまでの歩みと、
「誰かにとっての遊び場をつくりたい」という思いを聞きました。

Text / Photographs: Manami Yamada

重吉 祐輔さん

石川県小松市出身。金沢工業大学で機械工学を学ぶ。エンジニアや製造業に関わる仕事に従事した後、高校生の探究学習を支援する、地域おこし協力隊として石川県加賀市にUターン移住。現在も教育の分野に携わりながら、2025年、古着屋と古本のショップ「COSMO(コスモ)」を開業。100人中100人が落ち着ける場所ではなく、100人中3人でも居場所と感じる「遊び場」を目指している。

転職が続いた20代。行き着いた「教育」という分野。

重吉さんは学生時代、フォーミュラカープロジェクトに参加し、いわゆるF1のような車を、自分たちだけでゼロからつくるプロジェクトに情熱を注いでいたという。

そのプロジェクトでは、設計だけでなく、資金集め、スポンサー交渉、広報、予算管理までを全て自分たちで担い、重吉さんはリーダーを務めた。

その経験から、地元で有名な製造メーカーに新卒で就職。
しかし技術者として働くものの「エンジニアより、人とコミュニケーションを取る仕事がしたい」という気持ちが生まれ、3年目で転職を決意した。

そこで広島での外資系半導体メーカー(時には朝5時まで働き、少しでも製造ラインがストップすると数千万の損失が出るという、肉体的にも精神的にも厳しい環境だった)や、東京で製造業のコンサル会社へと、20代で3社を経験する。

「就職は、面接までいけば大体採用でした」と話す重吉さん。大学時代に、エンジニアだけではなく、営業や交渉まで担ってきたタフな経験が、彼の背骨となり、軽やかに業種を渡っていったのだと思う。

「ずっと東京に住み続けるイメージが持てなかったし、製造業から離れたかった」と話す彼が、次に選んだキャリアが「教育」だった。

未経験の教育業界へ。高校生から学ぶ、自分の軸。

人と関わる仕事がしたいと、次に選んだ業界は「教育」。

未経験からのスタートだったので、最初はアルバイトからでもと求人を探していたところ「高校魅力化プロジェクト・地域おこし協力隊募集」の記事(なんと加賀ぐらし!)を見つけ、その日のうちに履歴書を書き上げ、翌日に応募したという。

地元に戻り、そして教育の現場に。2021年夏のことであった。

業務内容は、高校生の探究学習(※)を支えるコーディネーター。
生徒たちの居場所づくりや、先生たちと授業を設計するなど、多面的に加賀市の高校生をサポートした。

重吉さんは、この経験を振り返り「心に見えない孤独を、誰しも抱えてるんだなと気づいた」と話す。このときの気づきが、今のCOSMOに繋がっているという。

※探究学習:生徒が自ら興味・関心に基づいて「問い(課題)」を設定し、情報収集・分析・考察を経て、解決策やまとめを表現する能動的な学習のこと。

教育とファッション。
COSMOのはじまりは、服と違和感から。

もともとファッションが好きだったという重吉さん。
「実家が、思った以上に古着で溢れてて。フリマでもやろうかな、くらいが始まりなんです」と教えてくれた。

インスタをメディアとし、1年に渡って自分や友人のファッションを紹介していたが、ある時、ふと自分が人の目を気にしていることに気づいたという。

重吉さんは当時の自分を「格好つけているというか、本当に着たい服を着れてない、縛られている感覚だった」と話す。

自分を取り戻すための、セルフポートレート。

2023年4月。今度は、重吉さんは個人のインスタアカウントでセルフポートレートを始める。一切格好つけないこと。盛らないこと。ありのままを出すことをルールにした。

「取り繕ってしまう自分を追い出す作業というか。正直になる練習みたいなものですね。一種の治療だったと思います」と重吉さん。

荒療治はうまくいき、結果、自分を晒し続けることで、少しずつ“殻”が割れていったという。

重吉さんの個人のインスタグラム(@y_s_s_y_s

インスタのストーリーで呼びかけ、
山中温泉で店を持つことに。

2025年7月、ついに古着屋「COSMO」が山中温泉にオープンした。

高校生との触れ合いのなかで生まれた「誰かの居場所をつくりたい」という気持ちから、実店舗を持ちたいと思うようになった重吉さん。

最初は片山津や山代も考えていたが、知り合いの手伝いをきっかけに、山中温泉をよく歩くようになり、気になる空き店舗を見つけたという。

「この物件いいな〜ってストーリーに上げたら、友人が『私の物件を使って!』とDMが来て。COSMO実店舗はそんな始まりでした。」

石川県に移住して4年目。場所も、人も、自然と繋がった瞬間だった。

100人中3人にとって、必要な場所であればいい

重吉さんは、COSMOのステートメントの結びにこんな言葉を選んでいる。

ここに集うすべての人々が、既存の隔たりを溶かし、
自らの純粋な衝動を解放しながら、新しい価値を共に創造できる。

教育の現場で知った見えない孤独や、知らずのうちに格好つけていた自分を重ね合わせながら、COSMOは「全員に向けた場所」ではなく、「誰かにとっての自己を偽りなく解放できる居場所」にしようと決めた。

「100人中3人にとって、必要な場所であれば、それでいいんです」と話す重吉さん。文面だけを見ると、尖っていて、人を選ぶような場所に捉えられるかもしれないが、実際は逆である。

物を捨てられず、損切りが苦手で、古本や古着も溜まっていく一方の重吉さん。

もしかしたら大衆からこぼれ落ちるかもしれない、一人ひとりの心に寄り添い、ありのままを解放できる場所がCOSMOであり、重吉さんが表現したいことなのだと思う。

遊び=解放。だから、遊び場をつくる

「人間がやることって、結局“遊び”なんじゃないかなって思うんです」

「福井から来た農家さんが、いきなり本を10冊まとめて買っていったこともあります。彼は、福井の人を紹介する本を作りたいけど、自信がないと言うので『文章を書いたらまずCOSMOに持ってきて』と伝えたんです。」と、普段この場所で起きていることを教えてくれた。

毎週金曜夜にはブッククラブというイベントを開催し、ZINEづくりや、初心者同士でロボットダンスに耽る日もあるそう。イラストを描く人、CDコレクター、不動産屋、様々な人が集まり、それぞれがそれぞれの方法で遊びながら自己を解放している。

もっと自由なまちへ。

重吉さんに将来の展望を聞いたら、「若い人が、“俺も店はじめてみようかな”って思ってくれる日まで、続けられたらいいな」と語ってくれた。

まちなかで本を読む人がいて、おしゃれな人が歩いていて、遊び場が点々と広がっていく。その一部にCOSMOがある日を夢見ているという。

COSMO Used Clothing & Books
石川県加賀市山中温泉冨士見町オ33(google map
Instagram: @cosmo_used

編集後記:ほぼ5年ぶりの加賀ぐらしでのインタビュー記事となりました。何度か加賀ぐらしを閉めようかなと思いましたが、いつかまた更新できたらと放置していたら、重吉さんに出会うことができました。COSMOのインスタにたびたび登場するワード「好きに生きろ」。今回のインタビューを通して、重吉さんは100%本気で真剣に誠実に、皆に「好きに生きろ」と言ってるのだと気付かされました。会話のなかで驚いたことがあります。重吉さんは「詐欺師から電話がかかってきても、それが詐欺と分かっていても、僕はフラットに話したいんですよね」と言うのです。5年ぶりの取材。たとえ記事を完成させられなくても、笑って許してくれる人に取材を頼もうと決めて臨んだのですが、私の直感は正しかったと、この言葉を聞いて思ったのです。重吉さん、私のリハビリインタビューに根気強くお付き合いいただき感謝申しあげます。


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TEXT BY

yamada manami

「加賀ぐらし」管理人。東京で育ち、2016年に石川県加賀市に移住。市役所の移住促進事業に関わったことをきっかけに地域に興味をもち、フリーランスや専業と形を変えながら、地域活性や非営利団体等の支援を行う。現在は旅館での企画・広報をメインとしながら、地域資源を活かしたインバウンド向けローカルツーリズムや、働き手にとっても魅力的な観光事業のかたちを模索。このサイトが新しい加賀との出会いにつながりますように。