蒔絵文化を繋いで、伝えて、変えてゆく。私たちが作るものは本当に美しいものか。

石川県加賀市では、”蒔絵”という伝統工芸に今なお向き合い、
ひたむきに「本当の美しさ」を追求している蒔絵師が多数存在しています。

今回は、その中でも家族それぞれが作家活動を行い、
世界からもラブコールがくる”うるしアートはりや”さんに取材しました。

うるしアートはりや

1981年に設立。
金粉や銀粉を施しながら細やかな絵模様を描く”蒔絵作品”を手がけ、
父・母・息子2人の家族四名がそれぞれ作家として制作を行う。

設立当初、茶道具への蒔絵を主流としていた同社だが、
現在では”蝶貝”や”琥珀”、”べっ甲”など様々な素材に蒔絵を描くことで、
アートから日常使いのジュエリーまで幅広い商品を世に送り出している。

「自分たちの作っているものが本当に美しいのか」と常に問い続け生まれた作品は、
ヨーロッパで開催される工芸展に招待を受けるなど、世界からも注目されている。

作家・針谷 崇之さん

1983年、石川県加賀市生まれ。

高校卒業後、富山大学の前身でもある富山大学高岡短期大学部・漆工芸コースに進学し、
林暁(はやし–さとる)先生を師として、「乾漆(かんしつ)」と呼ばれる漆技術を学ぶ。

乾漆(かんしつ)…

木、土、石膏などの型を使って麻布などに漆を張り重ね素地を作る方法。

転用元:コトバンク

その後大学を卒業し、加賀市にUターン
家業でもあった「うるしアートはりや」に入社。

カフスボタンに蒔絵を施したメンズアクセサリーの制作や、
若い女性をターゲットにしたブランドを新たに立ち上げるなど、
”蒔絵”の新たな可能性を見出し、型にはまらない作品を展開している。

Q1 子供の頃から家業を手伝おうと思っていたのでしょうか?

そんなことはありませんでした。

小学校からずっと競技スキーをやっていたので、高校も部活で選んでいましたし、
「将来、蒔絵をするんだ!」という感じは全然なかったですね。

進路を考え始めた高校三年生の時に、富山大学高岡短期大学部・漆工芸コースの存在を知り
大学へ行きたかったのと、学費も安いという国立という理由で決めました。

うちの親の場合、小さい時に家業を手伝わせるということはなく、
「将来は継いで欲しい」というような事も全く言われてませんでした。

なので、自分にとっては大学に入ってからがスタートでしたね。


あまりにも繊細な絵柄たち もちろん全て手作業

Q2 展開されているブランドを教えてください。

現在、3つのブランドが立ち上がっています。

①HARIYA

創業した1981年以来続くメインブランド。
ブローチや刀鞘への蒔絵まで幅広い作品を手掛ける。

■ブランドページ:http://urushiarthariya.com/hariya/


世界的なプロダクトデザイナー、マーク・ニューソンがデザインした日本刀にもHARIYAが蒔絵を施した

②BISAI

マザーオブパールとも呼ばれる白蝶貝を使い、小さな手細工の世界を表現。
若い女性向けのアクセサリーブランドとして、細やかで愛らしい作品を。

■ブランドページ:http://bisai-jp.com/


若い女性の心に響く、小さな小さな手細工アクセサリー

③MT.ARTIGIANO(モンテアルティジャーノ)

珍しいメンズのアクセサリーブランド。

モダンから和柄にいたるまで幅広い絵柄が施された「カフスボタン」や、
襟元に遊びと技の効かせた「ボタンダウンピアス」など、
メンズならではの蒔絵の楽しみ方を提案している。

■ブランドページ:http://shop.urushiarthariya.com/?mode=grp&gid=1370507/


風神雷神を描いたカフス 外国人にも人気だという


普段のシャツに新鮮な楽しみ方を 襟元にチラリと見えるボタンダウンピアス

Q3 蒔絵産業の抱えている課題はありますか?

どこもそうだと思いますが、やはり後継者不足は深刻です。

蒔絵組合はありますが組合員が減っていきていますし、
今入っていても後継者がおらず辞めてしまうという話もあります…。

Q4 なかなか新しい人も入らないのでしょうか?

昔は弟子をとっている所も多く、うちの両親も蒔絵師に弟子入りしていました。
それだけ蒔絵の仕事があったという事だと思います。

今でも、誰かを入れて育てていく大切さは感じていますが、
現実問題として、弟子を取れるほどの余裕はなく、なかなか難しいのが現状です。

Q5 家族4人が全員作家、難しさはありますか?

家族それぞれの役割があるので、うまくバランスをとってやっています。

例えばなにかを決断する時は、母が多いですし、
弟は職人気質なので、黙々と作業しているタイプですね。

逆に僕は「うるしアートはりや」のWEBSTOREを作ったり、
メンズアクセサリー向けのブランドを立ち上げたりして…。

それぞれが自分の好きなことを住み分けしながらやっている感じです。


兄弟が並んで作業している

Q8 これから残していきたいこと、変えていきたいことは?

何よりも蒔絵の技術を残していくこと

その上で、蒔絵の存在を沢山の人に広めていきたいです。

例えば蒔絵は色々な素材に描くことができるので、
アクセサリーをはじめ、若い人にも使っていただけるような作品を
もっともっと考えていかないといけません。

あとは、海外への展開も今挑戦していることの一つです。
ヨーロッパを中心に良い反応をもらっているので、
蒔絵文化が世界に認められるように今が頑張りどころだなと思っています!

うるしアートはりや

住所:石川県加賀市山中温泉塚谷町2−124

電話:0761-78-5154

ホームページ:http://urushiarthariya.com/


奥様は京都から移住して嫁いできた方 「石川の人はよく働く」と笑って話してくれた