石川県加賀市にある、山中温泉エリアは400年以上続く漆器の町です。
伝統を守りながらも変わらなくてはいけない、そんな現代において、
次世代の山中漆器をリードするあの商店さんに取材しました。
我戸幹男商店(がとみきおしょうてん)
1908年、石川県加賀市の山中温泉で”我戸木工所”として創業。
創業当初は、漆器のもととなる木の加工・成形を行う”木地屋”として活動するも、
その後「我戸幹男商店」へと社名を変え、現在は漆器製品の企画から販売まで一貫して行う。
400年以上続く山中漆器の伝統技術と、高いデザイン性が一体となった同社の製品は、
グッドデザイン賞やドイツ連邦デザイン賞を受賞するなど、国内外から注目されている。
そんな我戸幹男商店が、2017年11月に新たな一歩を踏み出した。
全国一の漆器産地でもあり、代々我戸家が根をおろしてきた山中温泉に、
ニューショップ「GATOMIKIO/1」をオープンさせ山中漆器の原点回帰に挑んでいる。
GATOMIKIO/1の内装
代表取締役 我戸正幸氏
我戸幹男商店の四代目。
山中温泉で生まれ、子供の頃から跡継ぎとして育てられた正幸氏は、
高校卒業後、将来を見据えて金沢市内の経理・簿記の専門学校に進学。
卒業後は東京の漆器問屋に就職し、およそ8年かけて漆器の流通〜販売を学ぶ。
2004年、自身が28歳の時に実家を継ぐため石川県加賀市にUターン移住。
移住後、「値段で勝負」が常態化していた当時の環境に疑問を覚え、
我戸幹男商店や山中漆器の持っている歴史や強みと向き合い、次世代をリードする存在に。
ー 「GATOMIKIO/1」のコンセプト・背景を教えてください。
コンセプトは「原点回帰」です。
ショップがある山中温泉という地は、1300年の歴史をもつ温泉場ですが、
山中漆器は、奈良に都があった頃からその湯治客の土産物として作られてきました。
いま弊社の商品は、ありがたいことに国内外の様々な場所で販売されていますが、
そんな現代だからこそ、外向きだけではなく、原点であるこの地の湯治客に
山中漆器を感じて欲しいとスタートさせたのが「GATOMIKIO/1」です。
代々受け継いできた山中漆器の伝統技術を確かに引き継ぎながらも、
その上で現代のライフスタイルに添うような洗練された漆器をご提案しています。
ー お椀の”セミオーダーシステム”もあるとか。
「GATOMIKIO/1」では、直営店舗の限定サービスとして、
計2145パターンからなるお椀のセミオーダーを受けています。
これも、山中漆器のもつ産地の特徴を活かそうと思い導入しました。
ろくろを回して木から器を成形し、漆を重ね、蒔絵で絵柄をつけるまでの全行程を、
全て一つの産地でできるのはこの山中温泉だけと言われています。
その贅沢さをこのサービスから感じ取っていただければ嬉しいですね。
奥様の里江さんと。中央のipadでセミオーダーを注文できる。ショップは奥様が担当されているそう。
また、「漆器は高い」というイメージを持っている方も多いと思いますが、
セミオーダーすることで、どんな形・色・塗り方をするとそれぞれ幾らになるのか、
それをお客様に知っていただきたいというメッセージも込めました。
壁一面に並べられたセミオーダーサンプル 手仕事だからこそ形・色・塗り方で値段も変わる
ー Uターンした頃の話を教えてください。
東京からUターンして2年くらいは、葛藤の時期でしたね。
自分たちの商品が「値段」でしか判断されなくて、それが惨めで仕方なかったです。
商品に対して「高い」とか「もっと安く作れ」とかしか言ってもらえないですし、
東京に行って販路を拡げようとしても馬鹿にされるだけで取り合ってくれなかったり。
出社しても仕事がなくて、FAXが来るのを一人で待ってたり、そんな日々の連続でした。
ー そんな状況からどうやって方針転換されたのでしょうか?
お客様からのニーズを叶えようとして、安いものを作って、便利屋になろうとして…。
それって結局何も出来ないのと一緒なんじゃないかって思うようになりました。
本当に自分たちがやりたいのは、「もっと格好よくて、もっと美しいもので、
上の価値観を提供したいんだ」って所に行き着いて、そこからデザイナーとコラボして、
お椀のシルエットなども思い切って変えていきました。
店内には「これが漆器?」と驚くような商品がずらり
ー そこからKARMIなどのヒット作が生まれたんですね。
最初のヒット作「KARMI」が出たのは3人目のデザイナーの時です。
方針転換を決意してデザイナーとのコラボを始めた後も、
実はなかなか思うように結果は出ませんでした。
KARMIの時は、デザイナーに任せきりにするのではなくて、
「ドイツに売る」「鉄瓶にマッチする茶筒を作る」という部分までこちらで決めました。
この頃から、僕らは売れるコンセプターにならないといけないんだなと気づきましたね。
最初にヒットしたKARMIシリーズ
ー 「人口減少社会×伝統工芸」をどのように感じてますか?
自分たちで消費を掘り起こす時代になったと思います。
”届く人には届く”、というのは日々の接客からも感じていて、
うちのお店には大型バスの団体客の方はあまり寄られません。
その代わり、「漆器」というものにあまり馴染みのないであろう若い子達は、
ふわっと来店して、ふわっと買っていくんです。
100人いたら100人に売るための商品開発はもう難しくなっていて、
どの価値観の人にピントを合わせるかを大切なんだと思いましたね。
漆器で作られたワイングラス 海外の方がまとめて購入していくこともあるそう
ー 残したい事、変えていきたい事を教えてください。
何よりこの技術です。
ただ単にモダンにしていくだけではなく、
昔からあるこの技法を1つでも多く残していきたいと思っています。
あとは、この地にある素晴らしいものづくりを、
格好つけながら伝えていきたいです。やっぱり原点回帰ですね。
取材後記:実は直営ショップ「GATOMIKIO/1」がスタートする前日にオープニングイベントを開かれた我戸さん。当日はDJブースや和酒バーが店内に設けられたりと、お洒落な空間に参加された皆さんも凄く驚いていました。私ももちろんその一人です。そんな我戸さんの活動をはたから見ていると、順風満帆で、センスがあって、新しいことにもどんどんチャレンジして、、なんと凄い人なんだ!と軽々しく思っていたのですが、今回の取材を通じて過去に経験されてきた苦労やエピソードを知り、自分が恥ずかしくなりました。そして我戸幹男商店の”凄み”を改めて感じました!師走のお忙しい時期でありがら、快くご夫婦で取材を受けてくださり、ありがとうございました!