石川県加賀市の今立町に移住をして、振り子式古時計専門店を営む方がいます。
古時計(アンティーク・クロック)うずりん堂
12年前からインターネットを利用して時計修理の仕事を請け負っていたが、2019年5月に実店舗を石川県加賀市山中温泉今立町に開業。
店内にはさまざまな種類の古時計が飾られ、チクタクとリズムを刻み、訪れた方になんとも言えない落ち着いた雰囲気を味合わせてくれます。
店の名前である「うずりん」とは、時刻になると「ボーン、ボーン」と時間を知らせるための渦リンのことです。渦巻き状になっているものを「渦リン」と呼び、まっすぐのものを「棒リン」と呼びます。
その時計の部品の名前をとって「うずりん堂」になったそうです。
店主・野世信水(のせ しんすい)さんについて
うずりん堂の店主である野世さん、以前は福井に住んでいたが、前々から都会ではなく山の中で暮らしたかったとのこと。
時間があるときには地図を広げ、自分の将来住むところを探していたところ、この家に出会ったそうです。家は敷地が広く庭があり、裏手にある綺麗な動橋川が流れている事が決め手だったと田舎暮らしの憧れを語ってくれました。
ですが住宅の状態はあまり良い状態ではなく、購入後18年間に渡って福井から通いながら自分で直せる個所は修繕を行い、時には家の中でテントを張り、囲炉裏だけで暖を取ったことも。時間をかけて徐々に今の住める状況まで修繕したそうです。
Q1 時計の修理の仕事をすることになった経緯は?
30代のころ、動かない明治時計を手に入れたので福井市内の小さな時計屋のじいちゃんに直してもらいました。
じいちゃんは見るからに頑固そうだったけど、お店に掛けてあった大時計を褒めた時、初めて1回だけニタッと嬉しそうな顔をしました。今はそのお店も大時計もなくなり、おそらくじいちゃんも死んでしまったのでしょうね。そしてじいちゃんの直してくれた古時計だけが、今も私の家でしっかりと時を刻んでいます。
それ以来、古時計計のカチコチという音、ボ~ンボ~ンという響きは、私の暮らしの一部になりました。そしていつの間にか、いろんな古時計を集めて修理するようになり、いつの間にかその延長でとうとう古時計屋になってしまいました。
ですから、うずりん堂は私の楽しみです。その楽しさを他の人にも知ってもらいたい、というのが私の思いです。なので、初めて古時計を使ってみたいというお方、大歓迎です!ゼンマイなど巻いたことがない!という方、大歓迎です。
Q2 修理の技術はどうやって学ばれたのですか?
時計の修復技術はほぼ独学で学びました。
インターネットでの情報収集などで技術や知識を学び、自分で修理方法を考えながら試行錯誤を繰り返してきました。
初めのうちはどんな道具を使うのかも知らず、ゼンマイを弾かせて怪我をしたこともありました。ゼンマイを緩めるための道具があるのを知ってそれを探しましたが見つからず、自分で似たようなものを作ったこともありました。
ゼンマイを固定する方法なども、昔からの方法とは別に、自分なりに使いやすい方法を見つけ出したこともあります。また機械を調整するための台なども工夫して作りましたし、調整方法もあれこれやりながら自分で見つけていきました。
Q3 時計の修理の仕事の醍醐味は?
仕事の醍醐味はいろいろとあるのですが、何十年も前に動かなくなってしまった古時計を分解し、部品一つひとつを洗浄し、磨いて、傷みや歪みを直し、オイルを入れながら組み上げると、『カタカタカタカタ…』と動き出します。
それまで仮死状態であった時計が、再び命を得て復活したように感じます。その時がこの仕事をしていて一番嬉しい瞬間です。それともう一つは、修理を依頼してこられたお客様の喜びようです。もう直らないだろうと思っていた時計が、きれいになってしっかり動くのを見て、とても喜んでくださいます。それが私にとってもとても大きな喜びであり、励みにもなります。
でも中にはスムーズにいかない時計もあります。何度調整しても止まってしまうものもあります。そんなときは腰をすえて、ゆっくり一つひとつ点検しながら原因を探っていきます。そしてやっと調子が出てきたときの喜びは、また格別です。
Q4 時計の修理以外にも色々なお仕事をやられているのですか?
時計の部品は真鍮(しんちゅう)で作られているものが多いのですが、その歯車などを切断して成形し磨いた後に、イヤリングやネックレスなどに加工して真鍮アクセサリーとして販売しています。真鍮は、時間とともに黒ずんできます。くすんだ色も落ち着きがあって魅力がありますが、ピカピカ光る方がいいという方には無料で何度でも磨き直しを行っています。10分もあれば元通りの輝きを取り戻せます。
また、時計以外にもコーヒーの自家焙煎も行っています。自分で生豆を選び焙煎機でコーヒー豆を作るのも楽しい仕事の一つです。
大きい焙煎機だけでなく、手焙煎ができる器具もあります。60gくらいの少量をカセットコンロと手焙煎機でじっくり焙煎するのも楽しいと思います。
Q5 今後、チャレンジしたいことなどはありますか?
今は今立町にある山奥の自宅で店を構えてゆったりと暮らしていますが、興味のある方がいれば真鍮材料を使ったアクセサリー作りや、手焙煎機を使って自分で焙煎したコーヒーが飲めるワークショップを開催できないかと模索中です。
古時計のレトロな雰囲気やチクタク、ボーンボーンといった音のゆったりとした魅力を、少しでも皆さんに広められれば嬉しいと思っています。
取材後記:実際うずりん堂のお客さんには若い世代も多いそうで、おじいちゃんの残した時計をもう一度動かしてみたいとか、たまたま見かけた古時計がとても素敵で欲しくなったなど、機械式時計の魅力に引き込まれる人がおられるようです。店主の野世さんに関しては最初にお会いした時の第一印象は少し取つきにくい方なのかなと思ってしまいましたが、話せばとても優しく紳士な方だとわかってからは私もこの古時計うずりん堂のファンになっていました。時間に追われる今の御時世、たまにはゆったりと時計の音を聞きながら美味しいコーヒーを味わう時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。