石川県加賀市・移住コンシェルジュのやまだです。
石川県加賀市では、「漆器の木地づくり」を学べる研修所があります。
「本当に一人前になれるのか」「卒業後どんな仕事があるのか」、
興味はあっても不安に思う気持ちは皆さん一緒です。
そんな不安を払拭するべく、実際の卒業生が取材に応じてくださいました!
木下富雄さん
2001年、36歳で「挽物轆轤(ひきものろくろ)研修所」へ入学するため、脱サラを決意。
同時に36年間暮らしていた名古屋を離れ、石川県加賀市へ移住。
研修所に通う傍ら、バイトで生計を立て、2005年の卒業と同時に木地師として独立。
木地師(きじし)…
轆轤(ろくろ)をひき、お椀や盆等の木工品を加工、製造する職人のこと。
現在、注文をうけて器の下地のみを製作する「職人業」と、
器のデザイン~漆塗り~販売までを一貫して行う「作家業」を兼務し活動中。
作品と活動の紹介
山中漆器の特徴の一つである「拭き漆」。
拭き漆…
形を整えた木の器に漆を薄くのばし、一旦乾燥させた後、
やわらかい布で拭き上げ、改めて漆を塗って、拭いて、を繰り返す技法。
木下さんの作品にも、こういった「拭き漆」という手法が使われています。
また、器の形にあわせて木の重心を決めたりと、
「日常的に使いやすい漆器」というテーマで製作されています。
また、そんな普段使いの漆器を提案する一方で、
漆器の新しい活かし方に情熱を注いでいる方でもあります。
山中漆器というジャンルを越え、様々な伝統工芸に携わる方とスクラムを組み、
【世襲じゃない工芸家集団”IKON”】のメンバーとしても活躍されています。
世襲じゃない工芸家集団”IKON”…
伝統工芸を支える為、様々なジャンルの若手作家が集まり、「ものづくりの希望」を後世へと繋ぐため活動。定期的に集合し、県外でのイベントや企画を構想するなど新しい試みを行っている。現在、東京のカフェとコラボし、自分たちの器を使った料理イベントを計画中。
Q1 卒業後、すぐに独立することに不安はありましたか?
今の研修生を見ていると、卒業後すぐに独立という研修生は少ないと思います。
卒業後一年間は、先生の工房で修行をして、技術を積んでから独立している人が多いですね。
修行先の工房も、研修所が本人の希望を聞きながら紹介するケースもあるようです。
Q2 独立の際、機材や場所の準備は大変でしたか?
昔は卒業後に轆轤(ろくろ)一式を購入して独立する人もいたようですが、
自分の場合、工房の作業スペースをレンタルしています。
研修所にいれば、空いている工房の情報なども自然に入ってきますので、
卒業後も加賀市に残る人は、レンタル出来る場合も多いと思います。
Q3 お仕事の依頼は多いですか?
どの職業にも言える事ですが、時代によって左右される面はあります。
自分が独立したときは、景気もよくない時期でしたし、
それに加えてリーマンショックもあったので、最初は仕事がありませんでした。
そんな当時は、デザイン性のある作品を作ってアピールしたりと、
仕事をもらえるような工夫をしていましたね。
【↓ハイヒールやスニーカーに漆器を施した作品】
ただ、2014年頃から木地職人としての依頼は増えており、
現在も全国各地から仕事の依頼が沢山きます。
今は木地職人としての仕事が6~7割、
作家などの他の仕事が3~4割という感じでしょうか。
最近では、国内の景気に左右されすぎないように、
石川県と協力しながら中国へ営業に行ったりと、販路拡大を目指しています。
Q4 研修生時代を振り返っていかがですか?
あの時は、生活費を稼ぐために研修しながらバイトしていたので、
なかなか大変でしたし、早く独立して漆器でお金を稼ぎたいと思う事もありました。
ただ、独立した今では、売上や営業の事なども考えなければいけないので、
研修生時代の、「ものを作る事だけに注力できる環境」は、凄く恵まれていると思います。
Q5 これから伝統工芸を始めたいと考えている移住者に一言。
この石川県加賀市は木地職人のまちと言われており、
こんなに多数の木地師が存在する場所は他にありません。
一生の仕事と考え、焦らず、コツコツとやっていくのが良いと思います。
【木下富雄さんのFBページ】:https://www.facebook.com/tomio.kinoshiata/
【世襲じゃない工芸家集団”IKON”のFBページ】:https://www.facebook.com/ikonet
今回、初めて挽物轆轤(ひきものろくろ)研修所を卒業した方とお会いする事が出来ました!実際に作業されている工房や完成した作品を目の当たりにして、改めて伝統工芸を誇りに思います。光が漏れるほどの薄引きの器でも、水を注いで染み出る事はないそうです。それを全て手作業でやっているという素晴らしさ。想像も出来ない技術が詰め込まれています。他では聞けない話をしてくださって、本当に感謝です。木下さん、有難うございました!