石川県加賀市にIターン移住をしてガラススタジオを営む方がいます。
全国各地を渡って自分が気に入った商品や本をお店で売りながら、
ガラス製作に勤しむ彼の作品はどこかユニーク。
移住して20年。長年暮らしているからこそみえる本音を語っていただきました。
Glass Studio Cullet
石川県加賀市の海の町・橋立町に佇むセレクトショップとガラス工房。
2011年にスタートし、今年で7年目を迎える。
店内には、店主自身のガラス作品はもちろん、
ジャンルに縛らない様々な器や本などが所狭しと並んでおり、
「ここに来たら何か面白いものがある」と地域の料理人の方も訪れる場所。
店主自身の作品も、普段使いにあわせた日々の器から始まり、
ガラスオーナメントやダルマモチーフの作品までユニークなものも多く、
関西や関東で個展を開くことも。
秋友 騰尊(あきとものぶたか)氏
大阪府出身。ガラス屋の家に生まれる。
高校卒業後、ガラス作家である叔父の工房に就職するため北海道へ単身移住。
6年間の修行期間を経て、助手から作り手の道に進む。
24歳の時に、叔父からの推薦で石川県にIターン移住。
観光施設にある「ガラス体験部門」の管理を引き受け、接客から経営まで幅広く学ぶ。
その後、「やっぱり自分はモノづくりがしたい」と決意し退職。
加賀市の橋立町に拠点を構え、Glass Studio Culletをオープンさせた。
ー 地元以外での創業、苦労や大変さはなかったのでしょうか?
正直なところありません!
もともとお客様は来ないと想定してスタートしたので(笑)。
多分お店を始める人たちが気になるのは「お客様が来るか」って事だと思うんですけど、
僕の場合は「最初から来ないだろう」と覚悟してたのでそこに苦労は感じませんでした。
今でもセレクトショップだけだと集客面で厳しいところもあるので、
自分の作品についてはインターネットや県外に売り込んだりしていて、
お客様が来ない時でも、「制作に時間をかけられる」とプラスに考えています。
スタジオのガラス工房で制作している様子
ー 移住後、しばらく経ってから創業を決意されたんですね
そうですね。創業する前から、加賀市には10年以上住んでいました。
観光施設でガラス体験のマネジメントや経営的なことをやっていく内に、
その時間を「自分の作品のために使いたい」と強く思うようになったんです。
どうにか自分の工房を持てないかなと思っていた時に、
今の物件を知り合いから紹介してもらって、空き家と更地をセットで購入しました。
そしてまずはセレクトショップの方を建てたんです。
制作活動については富山県にあるガラス工房をレンタルしてたんですが、
その後、生活も安定してきたのでセレクトショップの横にガラス工房を建てました。
創業を決めてから一気に物事を進めるんではなくて、
徐々に段階を踏みながらここまでやってきた感じですね。
店内の様子 所狭しと色んな作品が並べられワクワクする
ー 秋友さんの作品はユニークなのも多く、見てて楽しいです!
多分、そういうのが好きなんだと思います。
僕のコンセプトは、「うわあ、なるほど!」って思ってもらえるものを作ること。
同業の方がみた時に「やられた〜!」ってなるのを作りたい。
最近のものだと、太閤鏡餅はすっごく反響がありました。
県外からも注文が入ったりして、嬉しかったですね。
太閤鏡餅シリーズ 金沢金箔を使用した蜜柑は取り外すことができてお正月以外は花瓶としても使える
ー ダルマや招き猫をモチーフにした作品も話題になりました。
招福ダルマや招き猫シリーズは、金沢や加賀で個展をやらせてもらったこともあって、
いろんな人とのご縁を繋いでもらった作品です。
このシリーズが生まれた時に、これが自分のやりたかったことなんだと思えたんです。
だから自分の中では特別で、自分のタイミングでしか作らないと決めています。
注文も受け付けていないので、まさにご縁がある方の手に渡っていただきたい作品です。
加賀市のギャラリーで開かれた「ガラスの縁起物展」では、期間中に完売するほどの人気だったという
ー 加賀に移住して20年!どんな日々を過ごしていますか?
とにかく食が豊かだと思います。
野菜をくれる近所の方もいるし、最初は「本当に無料でくれるんだ」って驚きました(笑)
魚についても、特に僕の住んでいる橋立町は漁師さんが暮らす町なので、
漁師さんから直接買ったり、充実の食生活を送っていますね。
ただ、僕には子供が三人いるんですけど、
やっぱりクラブ活動の選択肢は少ないなあって思います。
バスや電車が通ってないエリアなので、
学校まで送迎が必要だったりもして…そういう所は覚悟が必要です。
看板犬のツルちゃん ガラス工房への出入りも自由
ー 地域の人との繋がりはありますか?
嬉しい繋がりばっかりです。
地元の飲食店さんが僕のガラスを使ってくれたりもしていますし、
この家も知り合いからの紹介で購入できたところがありますから。
移住者ではあるけれど、みなさん良い距離感で接してくださっています。
祭りの時なんかは、昔ながらの濃い繋がりに少し寂しさを感じる時も正直ありますが、
でも仲間はずれなんかは決してされないし、自分の子供たちは楽しんで参加していますね。
花瓶などの大きな作品も手掛けている秋友氏
ガラスのオーナメント 地域のお店で飾られている姿を見かけることもよくある
ー これから移住を考えている人に一言ください
この橋立というエリアは、海からも近いし、夏になると沢山の蛍がみれます。
夏場とかは日本海がすごく穏やかで、何もない贅沢も感じてもらえると思います。
すごくポテンシャルを秘めている場所なので、
自分の暮らしさえ持っていれば、本当に楽しく過ごせますよ!
取材後記:大阪から北海道、そして加賀を定住の地とした秋友さん。ガラス作家として活躍する一方でセレクトショップも営んでおり、自分以外のガラス作品も置いていらっしゃいます。「自分の目でみて、面白いと思ったらガラスでも本でも置いてるんです」と笑顔で話してくれました!「最初からお客様はこないと想定して始めた」というエピソードには驚きましたが、これから人が減っていく地方では秋友さんのような外への発信力が強い方が必要なんだとしみじみと。終始面白い取材時間でした…!実際の制作風景も見させていただいて、ありがうございました!